「えぇ⁈ 何で帰るの?」


何も言えないでいる私の代わりに、こころちゃんが理玖くんを引き止める。


「はぁ⁈ 帰るだって? 人が歌ってる最中に!」


ちょうどサビ部分を気持ちよさそうに歌っていた純太くんも、周りの会話に気付いたのかマイクをテーブルに置いてしまった。


「……帰って来いだとよ、親が」


ブーイングを受け、理玖くんはしぶしぶといった感じで返事を返す。

手に持つスマホをひらひらとさせてみせた。


「ってわけで、お先に」


どこからともなく出した千円札数枚をテーブルに放る理玖くん。


「引き続き二人で紅白歌合戦って感じで。じゃな? 行くぞ、桃香」


そう言い残し、一人さっさとドアを出ていってしまった。


「あっ……」


慌てて立ち上がり、こころちゃんにスマホを手渡す。

カバンを手にドアに向かった。


「今日は、本当にありがとうございました!」


焦りながら二人に頭を下げ、私は急いで理玖くんのあとを追いかけた。