死にたい君に夏の春を

「ずっと俯いてたから。知らなかった」


月の光が、彼女を照らす。


ふと見た横顔が、今にも消えそうなくらい儚い。


「でも、綺麗」


そんな彼女を見ても、僕は語りかける言葉が見つからなかった。


こんな時、僕はどうすればいいのだろう。


こんな僕が、気を使ったり、慰めることなんてできやしない。


この不甲斐なさに、怒りさえ覚える。


だったらせめて、これくらいは。


そう思い、僕はゴミ箱を掴んだ。


「え……?」


九条を通り過ぎて、教室の一番後ろで足が止まる。


迷わず、21番と書かれたロッカーを開けた。


「なにしてるの?」


そして、ゴミ箱の中のものを一気に放り込む。


「そこって……」


僕は言った。


「樹のロッカー」


樹 梨央(いつき りお)。


このクラスの級長。


そして、九条 栞をいじめるきっかけを作った張本人。


「僕がやるような立場ではないけど……。ごめん、抑えきれなかった」


「……どうして?」


「なにが?」


「どうしてそんなことをするの?」


「……仇、って言ったら、変かな」


「変だよ。
高階くんがそこまでする必要性を感じない」


必要性、か。


確かにそんなもの、ないかもしれない。


でも、いじめに必要性を求めること自体間違っている。


「……僕は今怒ってるんだ。自分と、樹と、そしてお前に」


「私?」


「九条はいじめられることに感謝してるとか言ってたけど、そんなの嘘だろ」


彼女は俯いて、黙る。


「君が怒らないから、代わりに僕が怒ってやった。そんな辛そうな顔をしていると、僕も辛いからさ」


「でも……」


「恨んでいいんだよ。仕返ししたっていいんだ。それが自分を救う、1番の手段なら」