その風で、栞の体勢が崩れる。


それを見て、僕は駆け寄った。


縁に立っていた彼女は足を踏み外し、屋上から落ちそうになる。


手を伸ばす。


もう、二度と離さないって決めたから。



僕の手は、確実に彼女の手を掴んだ。


柵が腹の傷にくい込んで、気を失うほど痛みが走る。


それでも、彼女を離さない。


「……やめてよ。もう決めたのに……」


右腕の切り傷も、じわりと血が滲む。


「離さないから……絶対に」


「やだよ、一颯まで死んじゃうの、私いやだ」


「僕も嫌だ!栞が死ぬなら、僕も死ぬ!」


腕が引きちぎれそうになるくらい痛い。


腹も傷が開きかけていて熱い。


「ぐっ……早く、足を柵に!」


痛がる僕を見て彼女は、その言葉に応えるように僕の手首を掴んだ。


そして足を柵に掛けて、僕は持てる力を全て出して引き上げる。


「う…おおお!」


引き上げた拍子に彼女を抱きしめ、屋上に倒れた。


力を出しきった僕は、息が切れて呼吸が荒くなる。


僕に覆いかぶさった栞は言った。


「死に損なっちゃった」


「後悔してる?」


「……ううん、本当は安心してる」


僕の耳元でそう囁く。


「でもね、怖いの。これ以上幸せになるのが。もし不幸なことが起きたら、また壊れちゃうんじゃないかって思って」


「そんなの心配してたら、今頃全員死んでるよ。みんな、幸せも不幸も、全て受け入れて生きてるんだから」


「……そうだったんだね。私、幸せになっていいんだね」


僕らは抱きしめあった。


もう離さないように、強く。