退院の日。
警察官の事情聴取も終わり、すんなりと帰る。
真昼の日差しを浴びながら、なんの会話もせず父さんと歩く。
アスファルトからの熱気は、病み上がりの僕にとって決して良いものではなかった。
心はまだ濁っている。
モヤモヤしていて、気持ち悪い。
ここ最近は栞とずっと一緒にいたから、会えないとなると寂しさが募る。
家に着き、父さんがドアを開ける。
久しぶりの家だけれど、あまり実感はない。
今まで無関心だったから、別に思い入れも何もなかった。
でも何故か、視界が開けて見える。
いつもと違う見え方だ。
閉ざしていた扉が開いて、鮮明になる。
窓の外の電柱も、家に置いてある猫の置物もいつも見てるのに、まるで今までなかったかのように思える。
「一颯、おかえり」
父さんは先に中に入り、振り返って僕にそう言った。
「……ただいま」
僕も父さんも、言い慣れない言葉。
だけど、自然と心が温まる。
やっと僕達は家族になれたんだと、そう思った。
