死にたい君に夏の春を



最初は、父さんと母さんの出会いについてだ。


父さんは元々、真面目で優秀な社員として有名なIT企業に務めていた。


その姿を社長に見初められて、僕の母さんとなる社員の娘とお見合いさせた。


そして2人はめでたく結婚。


そこまではよかった。


でも、ある日父さんは母さんを連れて姿を消した。


「母さんは寂しい人だったよ。まさに鳥籠の中の鳥。世間を全く知らず、成人しているにも関わらず子供のような人だった」


だから、父さんは外に出してあげた。


可哀想な彼女を自由にしてあげたかった。


2人は日本を出て、しばらく海外で暮らした。


だが海外の生活はそう上手くはいかず、父さんだけ日本に帰って働くことになった。


その直前に僕は産まれ、一緒に日本に帰った。


母さんは外国で思う存分自由に暮らした。


カフェを開いたり、稼いだお金で別の国に行ったり。


しかし、そんな日々はそう長くは続かなかった。


母さんは、強姦された。


夜道を歩いていたらいきなり男に拘束されて。


今まで過保護の中で暮らしてきた母さんにとって、そのショックは大きかった。


そして検査したらエイズに感染していることがわかり、絶望の淵に突き落とされた彼女は自殺した。