「すごい。こんなところなんで知ってるの?」
「小さい頃はよく来てたから。友達の家に行くふりして、ここで本読んでた」
「行くふり?」
「その時同級生に家がバレて、頻繁に訪ねてくるやつがいたから鬱陶しくてさ」
「それが嫌だったんだ」
「ほんと、迷惑だったよ。でも、こんな僕に構うなんて物好きな奴もいたもんだな」
「私は一颯のこと、気になってたよ」
そう言われて、驚く。
一体どういう意味でそう言っているんだ。
「私、学校はあまり行かなかったけど、一颯の雰囲気はクラスで浮いてたもん。だから名前もちゃんと覚えてたんだと思う」
浮いてたって、栞にはそう見えていたのか。
「……でも読み間違えてたけどな」
「それはもうやめてよ……」
話を掘り返されて、少し怒る彼女。
「みんな、一颯のこと気になってるんだよ。少し向き合ってみたら?」
「栞がそんなこと言うなんて意外だな」
「確かに、いじめられてた私が言うのもなんだけど。なんとなく、一颯は他の人と仲良くできそうだよ」
僕が他人と仲良く、か。
そんなの、今も昔も無理だ。
僕は今、栞がいるだけで充分なんだから。
