死にたい君に夏の春を



結局釣れなくて、お店の人が1つだけくれただけだった。


「2つ取りたかったのに」


悔しそうに頬を膨らめるのが、仮面越しにでもわかる。


「1つだけで充分だよ」


人通りが多いこの道。


ふと、すれ違った人に目がいく。


聞き覚えのある騒々しい声。


織部と、樹だ。


隠す気もなくなったのか、2人で手を繋いでいる。


彼らは僕達に気づきもしない。


「どうしたの?」


栞が聞いてくる。


「いや、なにも」


もし仮面をしてなかったらどうなってたことやら、想像もできない。


「あっち行こう」


僕は栞を連れて、屋台から少し離れた場所へ歩いていく。


神社の奥は人が少なく花火も見やすいだろう。


ほとんど山のような坂を登る。


栞は楽しそうに水風船をつきながら歩いている。


しばらくすると、視界が開けてきた。


街が見渡せるほどの開けた場所。


綺麗な街並みと、星空が見える。