気になってしまった。


彼女が何故こんな廃墟に入るのか。


昨日の件があったから、見つかったらめんどうなことになるのはわかっている。


なのに、好奇心というものは恐ろしいもので、自分の身の危険を感じていても止められないのだ。


じっと彼女の後ろ姿を見る。


見るな、絶対にこっちを振り返るな。


だがそんな思いは叶わなかった。


彼女はゆっくりと振り返る。


そして、僕を見た。


全く表情を変えず、その真っ黒な瞳で。


彼女の足はこちらに向かってくる。


僕は石になったように、体が動かない。


気がついたら彼女は目の前にいた。


「来て」


そう言って、荒々しく僕の手首を掴んだ。