そしてその数十分後に現れた藤澤さんに、凛子は無事におつまみセットを渡すことができたのだった。

練習に行くのだから、前みたいにもう練習着を着ているのかと思いきや、普通にスーツを着ていたので少しばかり不思議だったけれど。


「ほんっとーーにお世話になりました!申し訳ありませんでした!やまぎんのファンです!頑張ってください!」

外だから思いっきり声を出していいというわけでもないのだが、これは凛子の性格なので私にはどうにもならない。
彼女は言うだけ言って紙袋を藤澤さんに押しつけて、スッキリした顔をしていた。

「……ありがとうございます」

と、戸惑った表情のまま彼が紙袋を受け取る。

「別にお礼なんてよかったのに、わざわざすみません」

「そういうわけにいかないですよ!一生の自慢にします!あの藤澤職人にお姫様抱っこしてもらったって!」

「─────いや、それたぶん誰も分からないかと…」


ツッコミどころ満載の会話を展開している二人を眺めて、私は一人クククと笑いを堪えていた。
二人が絡んでいるのを見るのは、ちょっと新鮮。

微笑ましく遠くから見ていたら、斜め上から低い声が聞こえた。

「あれは、告白タイム……ではなさそうですね?」

「わぁっ!びっくりしたあ!」

不意に話しかけられたので、飛び跳ねるようにして見上げる。
いつの間にそこにいたのか、隣に栗原さんが立っていた。今日も愛想よく、優しそうに微笑んで。

「さっきフジさんから石森さんが来てるって聞いたので、挨拶だけでもと思いまして」

「お忙しいのにありがとうございます。今からみんなで移動ですか?」

「みんなだいたい自分の車で向かいますよ。俺もこれから向かうところです」

彼は大きなスポーツバッグとビジネスバッグを持っており、車の鍵を指先でくるくる回していた。

憧れの栗原さんがここにいるというのに、凛子はまったく気づくことなく藤澤さんに何かをしきりに話しかけている。彼は彼でとても困ったような顔で首をひねったり、曖昧にうなずいたりを繰り返している。

会話が弾んでいるというより、凛子が一方的に何かを言っているらしい。