「いやー、すみませんね!“柑奈に電話して!身元引受人だから!”って言って聞かなくてねー」

人の良さそうな笑顔で私たちを出迎えたのは、ヒゲを生やしていてなかなか味のある店主のおじさんだった。

目の前には、カウンター席で突っ伏してすやすやと眠る親友。
さっきまで焼き鳥を焼いてました、というようなおじさんがつるつるした髪の毛のない頭をポリポリかいて困ったように目尻を下げる。

「ペース早かったから心配だったんだけど、案の定潰れちゃって。申し訳ないんだけど、彼女のこと送ってあげてもらえる?」

「すみません……とんだご迷惑を……」

「いえいえ!それは全然!柑奈ちゃんもデートしてたんだろうに、水差しちゃってごめんね」

私の後ろに立っている藤澤さんをチラ見して、おじさんがにっこりと意味ありげに笑っていたけれど、とりあえず違いますとそれだけ否定して凛子に駆け寄った。

このお店はよく二人で利用しているので、お店の人たちとも馴染みがある。
でもまさか凛子が一人で来て飲んでいたとは思わなかった。


「凛子!凛子!帰るよー!」

声をかけても、揺すってもだめ。
無駄だと思うよー、という諦めの境地に達したおじさんの言葉に絶望感を感じる。

「どうするんですか?」

事の成り行きを見ていた藤澤さんが心配したように見かねて声をかけてくれたけれど、私もどうしたらいいのか決めあぐねていた。

「たしか、凛子は二ヶ月前に引っ越してるんですよ……。新居にはまだ一度も遊びに行ってないから、場所が分からないし……」

「実家は?」

「あーーー北区ってことしか分からないです!」

「なるほど……」

彼の顔にも戸惑いの色が見えて、申し訳なさすぎてため息が出そうになる。
ぐっと堪えて意を決した私は、夢の世界へ旅立ってしまった凛子の体をなんとか持ち上げて肩で支えようとするが、意識のない人の重さったら想像以上だった。

フラフラしていると、反対側から藤澤さんも支えて手伝ってくれた。

「もーーほんとにごめんなさい!こんなことしてどこか痛くしたら、練習に影響出ませんか!?」

「そんなガラス細工みたいなもんじゃないですから、ご心配なく」

一気に運びやすくなったのでありがたいけど、迷惑をかけているという事実に胸が苦しくなる。

ひとまず凛子を連れ出した私たちは、そのまま大通りに出てタクシーを拾った。