22話「困り顔」




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 最近の千春は、目に見えておかしかった。
 よそよそしくなって、避けられていると思った途端に、甘えてくるようになっり……。それが終ると今度は忙しそうに出掛ける事が多くなっていた。

 秋文も練習や試合、そして起業準備に仕事などで忙しい日々を送っており、会える日も少なくっていた。それでも、千春への想いは変わるはずもないし、むしろ会えない日が続けば続くほどに愛しさは増していった。
 惚れた方が負けというのは、本当に当たってるなと思ってしまう。


 千春も寂しがってくれているのか、会える日は前以上に甘えてくれるようになっていた。
 そして、彼女はよく秋文の部屋に泊まるようになり家に千春の私物も増えていった。それは、秋文にとっては嬉しいことだった。
 千春は全て持って帰ろうとしていたけれど、秋文がそれを止めて置くように言ったほどだ。彼女はあまり納得してないようだったけれど、渋々置くようになったのだ。
 部屋に千春がいなくても、パジャマが置いてあったり、スキンケアが鏡の前に並べてあったりするだけで、秋文は彼女がまたこの部屋に来てくれると安心出来るのだった。




 その日も千春は秋文の家に泊まる事になっていた。
 2人でお風呂に入る事が多くなっていたので、入浴剤をいろいろ準備しておくと、千春はとても喜んでくれて、「今日はどれにしようかなー。」と嬉しそうに選んでいた。
 体や髪を洗っているところは見られたくないっと言って風呂場から出されてしまう。けれど、湯船に2人でくっついて入るのは好きになってくれたようだった。
 

 「梅雨だと寒いから、お風呂は暖まるねー。」
 

 向かい合って入るのはまだ恥ずかしいらしく、今日も後ろ向きの千春は、そのまま秋文に寄りかかっていた。


 「もしかして、夏でも風呂に入るとか言わないよな?」
 「入るよー!秋文お風呂好きじゃなかったの?」
 「普段はシャワーでいいと思ってる。」
 「えー……お風呂好きなのかと思ったのに。」
 「おまえが好きだから入ってるだけだ。」
 「………ずるいなぁー、秋文は。」


 少しの沈黙の後。
 千春は顔だけを後ろに向けて、悔しそうにそう言う。けれど、千春の顔はほんのり赤くなり、濡れた顔や髪が色っぽい。おまえの方がずるいと思い、悔しくなって千春の顔を軽く掴んでキスをする。