「静哉くん、重要なことを忘れてるよ?」
 「え、何ですかっ?」
 「私が移籍の事を秋文に話したら、静哉くんが教えてくれたってバレちゃうよ?」
 「あっ…………。それは、やばいですね……。」


 すっかり忘れていたのか、静哉はあんぐりとした顔を見せた。けれど、すぐに笑顔を見せて千春を見た。

 「でも別に怒られてもいいですよ。」
 「え……?」
 「俺、秋文先輩と千春先輩のやり取りとか見るの好きなんですよ。だから、二人が仲直りするなら、怒られてもいいです。」
 「静哉くん。…………静哉くん、優しいね。」
 「そうですよ!だから何かあったらまた相談してください。さ、ハンバーグ食べましょう!おいしいですから!」


 元気付けるように笑顔でハンバーグを食べ始める静哉に心の中でもう一度感謝した。


 「じゃあ、優しい静哉くんにさっそく1つお願いしてもいいかな?」
 「いいですよ!なんですか?」
 「静哉くんが、秋文の移籍の事を私に話したって内緒にしててくれる?」
 「え………。」


 静哉の性格だと、自分で秋文に話してしまったことを直接謝罪して、千春と話が出来るようにしてくれそうな気がした。
 それをやめてほしいと言うと、図星だったのか彼は唖然とした顔を見せた。


 「秋文との事は自分でなんとかするね。それに……彼から話してもらいたいの。我が儘だけどね。」
 「そんなことないですよ。………わかりました。話しません。」


 まだ、納得できていない様子だったけれど、静哉はきっと約束を守ってくれるだろう。

 千春は秋文が話してくれるのつもりはないのは、わかっていた。もし相談してくれるなら起業の話を打ち明けてくれた時に、話してくれたと思うのだから。
 彼に聞きたい。
 どうして、話してくれないのか。
 どうして、夢を諦めてしまうのか。



 静哉に聞くと、移籍をすることで、その国のプレイスタイルを知れて視野が広がる事、そして日本代表にも選ばれやすくなるという事を話してくれた。
 日本だけではない、他の国で戦った経験は大きいと話してくれた。

 秋文の夢の1つに、「日本代表に復帰する。」というのがあった。
 それなのに、その夢への近道を自分で切り捨てようとしている。


 その理由を知りたかった。