「秋文先輩の事なんですけど……結構噂になってるみたいですけど、大丈夫ですか?」


 静哉が何も知らない様子ならば、千春は秋文の起業の話は伝えないつもりだった。けれど、静哉は知っているかの口ぶりだった。
 秋文が静哉に伝えたのだと思い、彼に合わせながら話をする事に決めた。


 「秋文も大変みたいだけど、毎日頑張ってるよ。」
 「え?……あぁ、バレないように情報止めるの大変ですよね。それにしても、勿体ないですよね。」
 「勿体ない?」
 「そうですよ!!」


 千春は会話が噛み合っていない事に気付いたけれど、静哉は気づかずに話を進めていく。


 「秋文さんが好きなところだったから、絶対受けると思ったんですけど。なんで、迷ってるんですかね?」
 「好きなところ………。」
 

 やはり、静哉が話していることは千春とは全く違うって事のようだった。彼の起業の話は迷うどころか決めて、これから動き出す所まできているのだ。
 おかしい……なんの話だろうか。
 千春は気になってしまい、それ以上話すのを止める。
 意地悪かもしれないけれど、静哉から話を聞き出そうと思ったのだ。素直な彼は、千春の思惑など気づかずに、千春の知りたかったことを口にしてしまった。


 「秋文先輩、スペインチームへの加入オファーもらえるなんて、ずごい事なのに。やっぱり、勿体ないですよね。」



 その言葉を静哉が言った時に、丁度頼んでいたハンバーグセットが2つ運ばれてきた。

 おいしいハンバーグの味が、千春には全くわからなくなっていた。