明るく思いやりのある後輩に感謝をしながら、仕事に戻ろうとすると、他の社員に声を掛けられた。


 「世良さん。今、電話に出てもらっていい?海外のお客さんなんだけど。」
 「あ、はい。了解しました。」


 千春は受話器を取って電話に出る。
 すると、英語で話す男性の声が聞こえてきた。もちろん、千春も英語で返事をする。

 千春は英会話を幼い頃から習っており、今でも続けている。仕事のためというよりは、自分の趣味だった。英語で話したり本を読むのが、いつもと違う世界へ行けるようでワクワクするのだ。
 今でも知らない言葉を知ったり、こういして英語で話をしているのと心がワクワクする。


 電話を終えて受話器を置く。すると、先ほどの社員が声を掛けてきた。心配で見ていたようだった。


 「世良さん、いつもありがとう。あんなにスムーズに映画がしゃべれるなんて、すごいね。」
 「いえ。昔から楽しみでやっていただけなので。」
 「そんなことないよ。海外の店舗に出張で行ってもやっていけるだろうね。僕は行った時は大変だったよ。」
 「出張ですかー。それも楽しそうですね。」


 そんな話しをしながら職場での時間が過ぎていく。こうやって仕事をしている間は、秋文との事を深く考えないでいられるので気が楽だった。

 大好きな彼氏の事を考えるのが辛いと思うだけでも、千春は悲しくなる。
 彼にどうしてもらいたいのか。それが、わかりそうでわからないのだった。


 
 仕事帰りに、秋文から連絡があったけれど今日は英会話の日だった。帰りが遅くなるため会うのは断ってしまった。

 普段ならば、遅くても会っていたかもしれない。けれど、彼はまだまだ忙しくしているので、時間があるときは休んで欲しいと思っていた。
 が、本心はもしかしたら会いにくいと、思っていたのかもしれない。