20話「知らない真実」




 秋文から起業の話を聞いてから数ヶ月。季節はすっかり梅雨に入っていた。
 どんよりとした空は、千春の気持ちを表しているようで、そんな日が長い間続いていた。

 秋文に必要として貰えているのは、千春はとても嬉しかったし、話をしてくれたのも安心した。
 千春もいつも彼に会いたくて、会えない日は桜のネックレスを見てながら、秋文を想っていた。

 けれど、彼の言葉を聞いて、何故だか心の中で、「違う。」と思ってしまう。
 その理由はいくら考えてもわからなかった。


 自分の気持ちがわからず、彼に対して不安を持ってしまう罪悪感から、秋文と一緒にいると妙にぎこちなくなってしまっていた。
 それを秋文も気づいているようで、心配してくれたけれど、自分でも原因がわからないのだから、説明も出来るはずがない。
 そのため、普段通りに見えても少しよそよそしい雰囲気になってしまっていた。



 「先輩、最近元気ないですけど、大丈夫ですか?」
 「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。」
 「もしかして、お金持ちのイケメンさんとケンカでもしましたか?」
 「だから、いろいろ間違ってるから!」


 仕事中に隣に座っている女の子の後輩に声を掛けられ、千春は心配を掛けないように返事をした。

 彼女が何故秋文の事を知っているのか。

 それは、職場の同僚が秋文と一緒に車に乗って食事をしに行ったのを、目撃してしまったのだった。しかも、付き合って1ヶ月の記念日で、秋文がホテル最上階の高級レストランに行こうとしていたので、そう思われてしまったみたいだった。(秋文の車も外車なので高級車だった。) 
 けれど、車を運転していたのが、サッカー選手の一色秋文だとは気づかなかったのは不幸中の幸いだった。
 けれど、「千春はお金持ちと付き合っている。」という噂が社内に広まっていたのだ。


 「いつも楽しそうだったのに、最近顔が暗いですよー。先輩、無理しないでくださいね。何かあったら相談してください。合コンも誘いますよ。」
 「……ありがとう。何かあったら言うね。」