その後は気になる所は見つくしたのか、「付き合ってくれて、ありがとな。」とお礼を言ってくれ、2人でゆっくりと食事をした。冷しゃぶサラダは彼に好評で、おかわりも沢山してくれたのだった。





 「さて。食器片付けちゃうね。」
 「ご馳走になったんだ、俺がやる。」
 「いいから。ゆっくりしてて。」


 そう言って立ち上がろうとした瞬間。
 秋文が突然千春を横から抱き締めた。危なく食器を落としそうになり、「秋文?危ないよー!」と、抗議の声を上げるが、彼は一向に離してくれる様子はない。反対に、抱き締める力がどんどん強くなっていた。

 千春が観念して食器をテーブルに戻すと、秋文は「ありがとう。」と声を洩らした。


 「どうしたの?」
 「俺が調子悪くて、試合でミス多くて。挙げ句の果てには途中交代までさせられた、恥ずかしい試合だったのに。千春は、録画してるのを一緒に見てくれただろ。あれ、恥ずかしくなるかと思った。」
 「あ………そうだったの?!ごめん………。」
 「いや。いいんだ。むしろ感謝してるよ。」
 「え……?」
 「恥ずかしくないと言ったら嘘になる。けど、それよりも次は頑張ろうっていつもより思えたんだ。さっきはあんなにカッコつけて言ったけどな。それに、千春ならどんなにカッコ悪い所見せても、笑わないでずっと傍にいてくれるってわかって、嬉しかった。」


 好きな人に、良く見られたい。
 そう思ってしまうのは仕方がない事だと、千春も自らの経験でよくわかっていた。
 けれど、それが多すぎると嘘になってしまう。それもわかっていた。

 だからこそ、少しずつ自分の弱いところを見てもらわなければいけないのだ。
 秋文も自分と同じことで悩んでいたのだ。
 
 かっこいい彼が、失敗する姿を自分には見せたくないと思ってくれる。それがわかると、千春は嬉しくなってしまう。彼が悩んできたのに、喜んでしまうのだ。