「今日はどこに行く?」
 「本屋さんとゲーム屋さんと、あとは……。」
 「前に、カフェにあるパフェ食べたいって言ってなかったか?」
 「………あそこ、女の子ばっかりだけど、秋文来てくれるの?」
 「……やめとく。」


 そんなたわいもない話を2人で交わす事が幸せで。千春は、胸に感じる彼の腕を、ギュッと強く抱き締めた。


 「この桜のネックレス、会社でも褒められるんだよ。」
 「会社にまでして行ってるのかよ。」
 「うん。だって、ずっと身につけたいから。」
 「………あー……今、キスしていいか?」


 耳元で急に、そう囁かれて千春はドキッとしてしまう。キスをして欲しいのは山々だったけれど、今は人が多い街中だ。さすがに、それは恥ずかしい。


 「えっと、……今ここで?」
 「したくなったけど、我慢しとく。」
 「……からかったのー?」
 「本当だ。」


 目の前に彼の顔があり、驚き固まってしまうと、秋文はニヤニヤと笑って「冗談だよ。」と、先に歩いて行ってしまう。


 「もう!どっちが冗談なのー?」


 顔を真っ赤にしながら、秋文の後を追いかけた。



 本屋で漫画本や小説を2人で見ていると、「千春?それに、秋文か?」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。千春が振り向くと、そこに背の高い男性が帽子を深くかぶり、眼鏡をして立っていた。


 
 「あっ!出ー、すごい偶然っだね!」


 千春は、そういうと出に近づいて、軽く抱きついた。それを出は、ニコニコとしながら何も言わずに受け止めてくれる。

 どういうわけか、千春は出にとてもなついていた。同じ年なのに、落ちついていて、真面目な出を兄のように思っていたのかもしれない。
 そのせいか、千春は出に対してはすぐに抱きついたり、くっついたりしてしまっていた。
 もう大人なのだから止めないといけない、とは思っていたけれど、癖はなかなか直らなかった。