平日の夜とあって、駅前は混雑していた。
 電車の時間を調べようとスマホを取り出すと、何件か電話通知が入っていた。それは、すべて秋文からだった。


 「え、あれ?秋文からだ……どうしたんだろう?」


 帰り道はほとんどスマホを見なかったため、電話が来ていることに気づかなかった。
 慌ててかけ直すと、すぐに秋文と繋がった。

 
 「ごめん……秋文、どうし……。」
 『おまえ、今どこにいるんだ?』
 「え………駅前だけど。何かあったの?」

 
 電話口の秋文は焦った様子で、最後まで千春の言葉を聞かずに、質問をしてきた。
 いつもと様子が違うのに気づき、何かあったのかと心配してしまう。


 『あぁ……いや。何でもない。友だちとかと一緒だったなら、電話して悪かったな。』
 「ううん……大丈夫だけど。どうかしたの?」

 
 焦って早口だと思ったら、今度は声が沈んでいる。電話でもわかる秋文の異変に、千春はますます不安になっていく。


 「………秋文、体調悪いとか?もしかして、やっぱり仕事ばっかりで食べてないんでしょ?……心配だよ。」
 『なんの話だ?俺だって一応スポーツ選手だから食い物には気を使ってる。』
 「そっか………そうだよね。」


 秋文の言葉を聞いて、今度は千春が悲しくなってしまう。
 秋文はプロの選手だ。食べ物に気を使わないわけがないのだ。それを、勝手に食べてないかもと思って、ご飯を準備してしまった。
 それも、自分が秋文に会いたい理由でしかなかった。
 いい大人になって、「誕生日だから、彼氏に会いたい。」なんて、思わなくてもいいのだ。会えるときに二人で過ごせれば幸せなはずなのに。
 疲れて帰ってきて、さらに一緒に過ごしたいと願ってしまうのは、我が儘だ。そんな風に千春は考えてしまった。


 『おまえ、もう一人なのか?』
 「うん。」
 『じゃあ、今からその駅に行く。近くにいるから、すぐ着く。』
 「え………でも、仕事帰りで疲れてるでしょ?」
 『おまえな………彼女の誕生日に会いにも行かない彼氏なんていないだろ。……わかれよ。』
 「えっ………あ、ごめんなさい……。」
 『……怒ってない。じゃあ、また後で。近くについたら連絡する。』


 秋文の思いが嬉しいはずなのに、何故かギクシャクしてしまう。
 会話と気持ちが噛み合ってないのだ。

 それでも、秋文に会える事が嬉しくて、笑顔になってしまう。

 この気持ちのままでは、ダメだと千春自身がわかっていた。

 ちゃんと、今日考えたことを何をしたかったのかを、ちゃんと伝えよう。
 そう決心して、千春はキラキラ光る、車のライトの波の中から、彼の車を探した。