ピッピーっとホイッスルの音が会場に響き渡る。前半は引き分けで終わった。


 「………それはよかった。さって、私はお手洗い行ってくるけど、待ってる?」
 「うん。ここにいる。」


 そういうと、立夏は急ぎ足で席を離れていった。
 前半を終えた選手がベンチの方へやってくる。秋文が今日1番近くに見えて、ドキリとする。


 少し呼吸を乱し、ドリンクを飲みながらタオルで顔を拭いていた。一人のファンのように、彼を見つめていると、秋文がジッとこちらの方を見ていた。もしかして、気づいた?と思ったけれど、ここは広い会場だ。大勢の観客の中から自分の事を見つけられるはずもない。
 気のせいかなだろうと、思って彼を見つめると、一瞬微笑んだ気がして、胸がドキッと高鳴った。やっぱり見てくれているのだろうか。そう、嬉しくなった時だった。


 「ねぇ、今秋文さんこっち見てなかった?」


 そんな声が後ろの席から聞こえきた。自分より若い女の子達が嬉しそうに話をしていた。

 
 「見てたみてた!手を振ったから笑ってくれたのかなー?」
 「うれしー!秋文さぁーん!大好きー!」
 「ずるい!私もっ。」


 キャキャっと、女の子らしい歓声を上げる声を聞いていると、モヤモヤとした気持ちになる。それに、自分を見ていたという自惚れた勘違いが恥ずかしくなり、足に置いていた手をキュッと握りしめた。

 すると隣に座る気配を感じ、立夏が帰ってきたと気づき、とっさに笑顔を見せ「おかえり。」と迎えた。
 けれど、座っていたのは知らない男の人だった。


 「お姉さん、一人?可愛いな~って見てたんですけど、この後一緒に遊びにいきませんか?」


 短い黒髪に、丸いおしゃれなサングラスをかけ、たぼっとした服を着たおしゃれな男の人だった。自分より年下の男の人に見え、何故年上の自分に声を掛けるのか、と疑問に思いながらも、千春は困った顔を見せた。