聞きたいけれど、聞きたくない。
 そんな矛盾の葛藤で胸をドキドキさせなから、立夏の言葉の続きを待った。


 『秋文が練習中に足を怪我したの。』
 「え、そんな…………。ねぇ、秋文は?秋文は大丈夫なのっ?!」
 『千春、落ち着いて。』


 サッカー選手にとって足の怪我は大きな問題だ。
 今怪我をしてしまったら、せっかく日本代表に選ばれたのに、メンバーから外されてしまう事も考えられるのだ。それを考えたら落ち着いてなどいられるはずがない。


 「せっかく、日本代表に選ばれたのに……そんな事ってないよ……。」
 『その事は知っていたのね。千春、秋文は2か月安静にしてたら大丈夫だって事だったわ。』
 「そう、なんだ………よかった。代表メンバーは?」
 『たぶん、大丈夫よ。練習がスタートするまでは時間があるわ。』
 「よかった……。」


 1番の気がかりだった事が大丈夫だと知って、千春は大きく息を吐いた。
 けれども、それでも秋文の事が気になってしまう。今は病院にいるのだろうか、それとも練習に参加しているのか……。聞きたいことはいろいろあった。


 『それでね、秋文なんだけどメディアには内緒で帰国してるの。足の治療と体を休めるためにも自分の国に帰った方がいいと、監督の意向らしいんだけど。メディアには、代表選手のミーティングと練習のためってなってるみたい。でも、それもそのうち嘘だってバレると思うけど、とりあえず帰国する時は静かに来れたみたいよ。』
 「秋文はもう日本にいるの?」
 『えぇ。私はまだ会えてないけど、そうみたいよ。…………千春はどうする?』


 立夏は心配そうにそう聞いてきた。
 きっと千春と秋文の事情は大体知っているのだろう。それでも詳しく聞いてこないのは、2人で解決するべきだと思っているからだと、千春はわかっていた。

 秋文の怪我はとてもショックな事だった。
 けれども、千春が帰国するタイミングと合ったのは奇跡のようだった。