31話「返事と決意」





 和食店から出ると、いつものように優しく微笑みながら、塚本は話を掛けてきた。
 

 「世良さん、あと1カ所だけ付き合ってもらっていいかな?」
 「……はい。どこに行くんですか?」
 「着いてからお楽しみだよ。」



 千春の和食屋さんの亭主からもらった新聞をバックに入れていると、塚本が強引に千春の手を掴んだ。
 そして、先ほどよりも冷たく手で強く千春の手を握ると、足早に目的地に向かった。
 男の人の1歩と女の1歩は、全く長さが違う。塚本は千春が小走りになっているのにも構わずに、ズンスンと歩いていく。
 焦っている様子だったので、店を予約していくものなのか、閉店の時間なのか、と考えて黙って彼の後についていった。


 街から離れていき、会社がある方向に向かっていた。そして、彼が入ろうとした場所はおしゃれなマンションだった。
 さすがに、千春も不審に思い塚本に問いただした。


 「あの、塚本さん。目的地って、ここですか?……ここは……。」
 「そうだよ。」
 「ここって………。」
 「僕の部屋だよ。」
 

 素早く鍵を開けて、塚本はドアを開けて部屋に入る。もちろん、千春と繋いだ手を離すことはしない。「離してくださいっ!」と千春も抵抗するけれど、男の人の力に敵うはずもない。
 引かれるままに、ずるずると部屋に入れられてしまう。
 そして、ドアがバタンと閉まった瞬間に、彼に抱きしめられる。