塚本は千春の方を優しく支えて、体を向き合うようにさせた。
 そして、じっと千春の瞳を見つめていた。
 顔は真っ赤になり、目も少し潤んでいた。年上の男性なのに、自分に対してこんなに緊張してくれているのが、千春は不思議だった。


 「俺と付き合ってくれないかな。好きなんだ。きっと、彼氏の事忘れさせてあげるから。………世良さんには、もっと笑っていて欲しいんだ。」


 塚本の誠実で優しい言葉が、千春の胸にすっと入る。彼の優しさが今はとても暖かくて嬉しい。
 
 けれど、自分の頭にはまだ秋文の事ばかりが残っているのだ。
 秋文から告白されて、千春は断り悩んでから始まった、秋文との恋愛。
 気づけば、千春がどっぷりと彼にハマり、好きになっていた。
 
 彼が忘れられない。
 彼との思い出を忘れたくない。
 …………まだ、秋文との恋が終わっていないと信じたかった。



 「………塚本さん。ごめんなさい。私、まだ秋文の事が好きなんです。彼がどう思っているかわからない。けど、私はまだ彼の恋人だと信じていたいんです。」
 「………そうだよね。恋人がいるのに、こんな事言ってごめん……。」
 「………いえ。」


 塚本の優しさが伝わってくる。
 千春が秋文と付き合っている事を肯定して、信じてくれているのだ。
 「会いに来ないなんてもう別れてる。」とか「モデルと付き合ってる。」とかは言わないでいてくれる。
 塚本は、自分には勿体ない、かっこよくて紳士的で思いやりのある男性だ。そんな風に千春は思った。