秋文が自分の部屋に遊びに来たのは初めてだな、と千春は思い、不思議な気持ちで彼を見ていた。
 3人が引っ越しの手伝いをしてくれたり、4人であそびに来たことはあったけれど、秋文一人で来ることはなかったのだ。
 秋文の様子が気になりつつも、試合で疲れているだろう彼に早く夕食を作ろうと、台所へと急いだ。


 昨日の残りでは足りないと思い、豚のしょうが焼きを作り、昨日の残りの野菜スープと、ポテトサラダ、そしてご飯をテーブルに並べた。
 すると、秋文は少し驚いた顔で、並べられた食事を見ていた。


 「おまえ、本当に料理出来るんだな。」
 「……もう、秋文信じてなかったの?ちゃんと、出来るよ!」
 「彼氏のために練習しまくったって大学の時に言ってたけど、その彼氏と別れたから止めたのかと思ってた。」
 「……そんなはずないでしょー!一人暮らしなんだから。……さ、冷めないうちに食べよう。」


 そういうと、秋文は小さな声で「いただきます。」と言い、綺麗に箸を使い食べ始めた。
 秋文は、テレビの正面に座り、テーブルの左側に座っていた。ソファに座ってしまうと食べにくいので、座布団変わりに、クッションをひいて食べていた。
 すぐ近くで秋文が自分の作った料理を食べている。少し緊張しながら彼を見ていると秋文は「うまいよ。」と少し笑って言ってくれたので、千春も安心し微笑み返した。


 「もう、元気そうだな。」


 千春が笑うのを見て、秋文はホッとした表情をして、そう言った。


 「え………。」
 「おまえ、憧れてた先輩にフラれたって言ってだろ?いつもより、凹んでたから。」
 「……もしかして、心配して見に来てくれたの?」
 「………おまえ、何するかわからないからな。」
 「そんなことないのに…。」


 明るく返事を返しながら、千春は嬉しくなってしまった。
 自分には心配してくれる人がいる。今はそれだけで、気持ちが温かくなってくる。
 試合が終わって疲れていて。明日も、遠征があるのにこうやって見に来てくれる。
 秋文は少し恥ずかしそうにしながら視線を逸らしてしまったけれど、千春は彼を見つめてしまう。

 強気な言葉や、態度が多くて、言い合いのようになってしまうことも多かったけれど、彼の言葉はいつも的確だったし、言葉は強くても行動はとても優しかった。
 酔っ払ってしまった時も、眠るまで頭を撫でてくれるのをうろ覚えだけれど知っているし、連絡をすれば誰よりも早く返事をくれ、すぐに来てくれるのは秋文だった。


 「秋文は、優しいよね。きっと、彼女も嬉しいだろうな……。」


 彼女でもない友だちの私でさえも、こんなに優しくしてくれるのだ。秋文の彼女は、とても優しくされ、大切にされているのかな、と考えると、羨ましく、そして少しだけ切ない気持ちになった。