28話「励ましと衝撃」





  桜のネックレスの話をしてから塚本と千春はよく話をするようになっていた。
 桜の小物を使っていれば声を掛けてくれるし、日本の話で盛り上がったりもした。そして、塚本はサッカーが好きで、その話も出来るのが千春には嬉しかった。


 それでも、夜になって一人で家にいると、ネックレスや秋文の鍵を見つめては切ない気持ちになってしまった。
 秋文の部屋の鍵は、あの日置いてこようと思っていた。けれど、いざその時になると手が止まってしまったのだ。
 これを手離してしまったら、秋文との繋がりがなくなってしまう気がしたのだ。
 こんな鍵1つで繋がっていられる関係ではない。けれど、この遠く離れた土地にひとりでいると、これだけでも持っていてよかったと思うのだ。
 この鍵で秋文の家へ帰れる。
 そう思えるだけで、安心出来た。
 鍵を持っているだけで、恋人といえるはずがないのはわかっているのに、千春は気づかないフリを続けていた。







 『今日、今の仕事が一段落したからみんなで飲みに行くんだけど、千春もいきましょ?』
 『そうなんだ。………そうね、行くわ。』
 『やった!千晴が来てくれるなんて久しぶりよね。』

 そんなある日。同僚から飲み会に誘われ、いつもは断るはずなのに、この日は飲み会に行くことを決めた。
 もしかしたら、昨日のサッカーの試合で、秋文のチームが快勝して気分が良かったのかもしれない。
 秋文の活躍も見られ、昨夜は一人でテレビを見ながらドキドキしてしまっていた。