25話「強い決意」





 気づくと秋文は、呆然とリビングに座っていた。
 真夜中だというのに、窓の下には街の明かりが耐えることはない。
 この見える街の中に千春はいるのだろうか。そう考えてすぐに、いるはずがない。と、自分の勘が言っていた。

 千春の家まで行ったのは覚えていたけれど、家に帰ってくるまであまり覚えていなかった。
 テーブルには彼女が書いた手紙が置いてある。

 千春はきっと知っていたのだろう。
 秋文がスペインチームから誘われているという事に。
 そして、そのチームに入ることを千春は望んでいるのだ。
 そんな事をすれば、彼女とは離れて暮らすことになってしまう。そして、実際に千春は目の前からいなくなってしまった。

 彼女はどうして何も言わずにいなくなってしまったのだろう。



 フラフラになった体を鞭打って立たせた、寝室まで行く。
 試合後に遠方から帰ってきて、そして千春がいなくなった。体力的にも精神的にも秋文は疲れはてていた。上手く考えられないのはそのせいだろう。

 空腹も感じていたけれど、今は体を横にしたかった。
 ベットに横になって目を閉じる。
 すると、ポケットに何かがあるのに気づき慌てて取り出す。
 千春が置いていったプレゼントだった。
 
 すぐに起き上がって、プレゼントの箱を眺める。すると、リボンに小さな紙が挟まっていた。

 それを見ると「早いけどお誕生日おめでとう。」と書かれていた。



 「………それまで帰ってこないのかよ。」



 秋文の誕生日は、秋の中頃だった。
 今はやっと梅雨が開けそうな頃だ。
 千春は秋になっても帰ってくるつもりはないと意味するメッセージに見えた。

 秋文はプレゼントの中身も見ずに、ベットの隣にあるサイドテーブルにプレゼントを置いた。

 そして、まだ千晴の香りが残るベットで横になり目を閉じた。
 夢に出てくる千春は笑っていてくれる事を願いながら。