.......。

「なぁ...」



驚いて後ろを振り返った。

りょう、ちゃん...。

そこには居ないはずの彼が居た。

気まづくなって、行き場の失った視線を自分のつま先へと向けた。


「なんで、いるの」



私の声は冷めていて、まるで他人の声のようにすら聞こえた。

この状況をどう説明しよう。

どうやって、

どうやって.....



この張りつめた緊張を、溶かしたのは彼だった。


「んー、なぁ、ことり」


間の抜けた声を彼は私に話しかけてきた。


「腹、減らない?」


そう言って、ポケットをゴソゴソと漁り、ん、と私に個包装してあるミルクチョコレートを差し出した。

私は何も言えなかったけど、チョコレートは好きなので素直に受け取ることにした。

そうすると、りょうちゃんがまたポケットから同じチョコを取りだし、その場にあぐらをかいて、ほら、ことりも。なんて言うから、私も言われるがままに、りょうちゃんの隣にちょこんと腰掛けた。

貰ったものを食べないのも悪いので、チョコレートの封を開けると、自分の口にそれを放り込んだ。

甘い。

口の中のそれは私の体温でじっとりと溶けて、口いっぱいに広がった。

甘くて、溶けそうだ。


彼はいつだって、甘くて甘くて。


私を溶かしてしまいそうになる。