12月の春、白い桜が降る。

帰ろ、と言ってひなたは僕の手を引っ張った。

僕の足は、前へと進もうとはしなかった。


「本当なんだね。」


この時自分で自分がどんな表情をしていたのかなんてわからない。きっと酷い顔だっただろう。

ひなたは僕を見たまま、黙りこくってしまった。

帰りの電車の中、僕は彼女に何も言えなかった。

というか、何か話しかけようにも、
頭の中には何も入っていない、全く空っぽの状態で、

今まで美しく色付けられていた世界が急に褪せた気がした。

透明に褪せた世界の中で、隣にいるひなたの横顔だけが、鮮明に色を放っているように見えた。

その後は桜がまるで雪のようにひなたの周りを舞っていた線路の前で、

橙色の空に照らされながら僕は初めて彼女に告白をした。

だから、だからあの時ひなたは、桜が好きだと言っていたのか。

単純な理由なんかじゃなかったんだ。