「何か、症状が出ちゃった?」

何年も行きつけているため、女医さんは私に友達のような口調で話しかける。

椅子に座り、保健室で手当してもらった左腕を抱えながら、
最近記憶がなくなってしまうことについて説明をした。


女医さんは少し考えた素振りを見せて、
脳癌に、記憶細胞を破壊するような症状はないはずなんだけどな、と呟いた。

だとしたら、別に病気のこととは関係ないのだろうか?

私はただ呆然と、先生の横顔を見つめていた。

その時自分が、どんな表情をしていたのかもわからない。

後ろで立っている母も、声も発さず、どんな表情をしているのかわからなかった。