「…あたし。翔が好き…」



「え…?」



雨の音に遮られた為か、それとも、言葉自体を信じられないせいか。


翔は自分の耳を疑う様に訊き返した。



「…い。今、好きって言ったのか? それとも俺の聞き違い?」


翔の空いた方の手がまともに私の肩を掴んだから、私は翔から目を逸らし、軽く首を振った。


「里緒。俺じゃだめか?」


私は無言で唇をかんだ。


すれ違う人たちが私たちを好奇の目で見て行く。

私たちの異様な空気を感じ取り、顔を緩ませ、一部揶揄する声も耳に届いた。


不意に頬が熱くなる。


そんな状況にも構わず、翔は続けた。


「里緒のスキと…俺の好きじゃ重みが違うかもしれない。

でも、俺なら里緒を不安にはさせない。いつだって里緒だけを見てたんだ。

今の彼氏みたいな事は絶対に」


「…終わったと思ってた」


「え…?」


「桧山くんとは、自然消滅で。

もうあの人を好きな気持ちはとっくに捨てたから。

終わったと思ってたの…」


私は依然俯いたままで、頭を振った。


「でも…そうじゃなかった」


「…?」


「まだ…桧山くんの中では…終わってなかったの」