私は慌てて‘それ’を隠そうとし、眼鏡を拭いてやり過ごそうとした。



「…泣いてるのか? 里緒。何かあった?」



そう言うと足を止め、翔が私の顔を覗き込んだから、涙が止まらなくなった。



…こんな顔、見られたくない。



不甲斐ない自分を情けなく思い、私は両手で顔を覆った。


「無理すんなよ。俺で良かったら、話聞くし」


…何で翔はこんなにも優しいんだろう。あの人だったらこうはいかない。



俯いたままでずっと黙っていると、翔は言葉を続けた。


「…里緒。何か言ってくれよ。俺…

お前が今、何考えてんのか知りたい」



…翔。



涙で濡れた顔を上げると、視界に入った翔は何処か切なそうに見えた。



「何があったかは知らないけど。

俺、里緒には笑ってて欲しいんだよ」




…“それ、どういう意味…?”



問いは虚しく声にならなかったけれど。私は翔から目が離せなくなった。


彼の真剣な目を見つめていると、終わりの見えないトンネルで、ようやく出口を探し出した様な、そんな気持ちが胸中に広がった。


…ああ。そうか。


だからあたし。こんなにも苦しかったんだ…。



込み上げる想いに耐えきれず、私は翔を見つめた まま‘その言葉’を口にした。