「…まぁ。良いけどね」


呆れた目をして翔が笑う。



…そうそう。タダで勉強を教えるんだから、これぐらいの事はしてもらわなきゃ。



私は僅かに頬を緩めた。


門の前まで来ると、翔は足を止めて私の顔色をうかがった。


「…里緒。最近あの彼氏とはうまくいってんのか?」


…あ。今一番話題にしたくない内容だ。


私は俯き、頭を振った。


「…そっか。ごめん…」


バツが悪そうに、翔は目を逸らした。


…良いのよ、別に。もう自然消滅なんだから。


私は顔を上げ、小さく笑うと、再度首を振る。


「無理に笑わなくても良いよ。里緒はまだ好きなんだろ?」


…好き?


胸の奥が軋みを上げ、ズキンと痛んだ。


…違うわ。好きだったら絶対涙が出てる。


先に玄関へと進む翔の背を見送り、私は込み上げる歯がゆさに唇をかんだ。






揺れる時の波。

容赦無く照りつける日差しの中、私はひとり、大学の校庭を歩いていた。


…やっと帰れる。


いつまでも残る夏の暑さ。この時期の太陽は‘こころ'を刺激しているみたいだ。


「よぉ、菊川じゃないか! 久しぶりだなぁ」




…え。