8月。

あの日以降、告白できなかった自分が情けなくて、悶々としていた。

でも、あれから、遠かった二人の距離は、確実に近づいた。

近からず、遠からず。

いい距離感。

そのせいか、仕事がとてもしやすくなった。

帰りも何時も一緒に帰っている。

特に会話がなくても、息苦しくなることもない。

二人で居ることが当たり前。

お互い気持ちを言葉にしなくても、両思い。

…あれ?両思い?

私、仁に好きだって言われたことあったっけ?

思い返してみても、只の一度もない。

仁の行動は、私を想っての事なんだと思い込んでるだけなのではないか?

そう思うと、突然怖くなった。

…もし、私が好きだっていって、仁はそうじゃなかったら?

これでは只のイタイ女だ。

そんな事にはなりたくない。

この気持ちは、言わない方がいいんじゃないのか?

「おい」
「…」

「おい、楓!」
「は、はい?!」

…実は今、仁と一緒に帰ってる最中だったことをすっかり忘れて、自分の世界に入っていた。

「なにボケッとしてんだよ?車にひかれるぞ」
「ご、ごめん」

危うく車道に飛び出しそうになった私の手を掴んだ仁は、そのまま手を離すことなく歩いて帰る。

「ごめん、もう、余所事考えないで帰るから、離して」

「…嫌だね」

…結局、マンションまで、手を繋いで帰った。

…私のこと、子供だと思ってるのかな?

そう思うと、悲しくなった。