「…そんなの嘘だよ、信じない」

そう言って、私は力なく笑った。

その何とも言えない表情に、友美は口ごもる。

「楓ちゃん、もしかして、」

三神君の口からポロッと出た。

「…好きなの?…寺崎の事」

次に言葉を発したのは友美。

私は左右に首を降る。

好き?そんなわけない。アイツは私の天敵なんだから。

「寺崎と、面と向かって、腹割って、話しなよ」

それにも首を降る。

「逃げたって、何も始まらないし、終わらないよ、楓ちゃん」

見かねた三神の口から出た言葉。

好きだけど、好きだからこそ、こんな苦しそうな私を見ていられなかったんだと思う。

「うん、まぁ、そんなに急いで行動する必要ないわよ。今夜は飲もう、ね」

それ以上、仁の話はでなかった。

数時間後。お開きになり、私は帰路につく。

三神君が送ってくれると言ったが断った。

もう、夜の11時を回っている。

マンションまでの道は、街灯が少ない。

いつもなら、無理矢理にでも、仁がとなりにいたのに、今夜は独り。

『痴漢注意』

初めて見つけた看板。

私は怖くなって、早歩き。

「…やっぱり、送ってもらうんだった」

なんてボヤいても、後の祭り。

その時だった。後ろから、自分以外の足音。

止まれば止まる。

進めばついてくる。

ホントにヤバい。

私は走り出した。

マンションの中に入ればドアは住人以外は開かない仕組みだ。

「もう!やだ!」

私は泣きながら走った。