「んなことねえよ。」
「__っ?!」
私は突然背後から聞こえた声に、ビクッと体を跳ねさせた。
そして声の方へ振り向こうとした瞬間、
__フワッ
……良い匂いが私の鼻をかすめた。
かと思うと、その人は私を見もせず後ろを通り過ぎて行ってしまった。
「?」
私が頭にはてなを浮かべている間に、その人は自分の席に着き
「俺は優しいっつーの。変な噂流すんじゃねーよ、水月。」
と、前の席の女子の頭をべしッと叩いた。
……ああ、なんだ。
偶然タイミングが重なっただけか。
私はほっとしたような、がっかりしたような複雑な気持ちで体の向きを戻した。
そして、自分を落ち着かせるように紅茶を口に入れる。
__……心の声が、口に出てたのかと思った。
そして、その心の声を彼が否定してくれたのかと、思ってしまった。
そんなこと、あるわけがないのに。
私の未来は明るいよって、
一緒に楽しくしようって、言ってくれる人なんてそう簡単には見つからない。
わかってる。もう十分なすぎるほどわかってる。
……だけど、少しは期待したっていいでしょ?
『四宮』の名も外見も関係なく、ちゃんと『私』を見てくれる人がいるかもしれないって。
……期待するほどむなしくなるのなんて、もう分かってるんだから。

