「ごちそうさま。」
私は飲んだ紅茶のカップを丁寧に置き、口元をハンカチで拭く。
すると三人ほどの男子が出てきて、ササっと紅茶セットを回収した。
そして、秒の速さで洗い場へと運んでいく。
この後男たちが、洗う前にしてることを見てしまった日のことは、きれいさっぱり忘れよう。
「……。」
私はふとさっきの人が気になり、その人に視線を移す。
夜草 凛
私、この人の名前だけは覚えてる。
だって、クラス一素敵な名前だから。
……夜に咲く、凛とした花。
檻なんか囚われず、自由な場所で凛と咲いている花。
……まるでわたしとは正反対な名前だ。
あの人のことは全く知らないけど、名前に合った人だな、と思ったことはある。
大勢で戯れず、人に囲まれるよりも一人が好きな人。
そんなイメージが、彼にはあった。
だから正直、羨ましい。
憧れる。
自分を作らないでいられるなんて、どんなに幸せなんだろう。
私は叶いもしないことを想像して、ふうっと息をつく。
……彼のように、なってみたい。

