あなたの名前は忘れたけれど。

今日も彼がやってくる。

お部屋を少しだけ暖かくして、冬用の部屋着を着て私は待つ。


今日は、伝えようと思うの。


もう充分、泣いたんだもの。


ねぇ、いいでしょう?


開いた扉。

私は「おかえり」と声をかける。


靴を脱ぐために、玄関の扉を向いて私に背を向けて靴を脱ごうとする彼の背中。


少し見つめ、私は「…好きだよ」と呟いた。


多分聴こえていたと思う。

少しだけ止まる彼の動き。


「…うん……」


よかった。

彼が背中を向けてくれていてよかった。