魔法――。
 古くはエジプト文明の時代にはすでに完成させられていた、異形と言われる力。
 中世ヨーロッパでは注目を呼び、盛んに魔法使いが現れた。
 中には偽者もいたが、魔法使いを恐れた非魔法使いは、その魔法使いと思われる者全員を焼き殺した。すなわち魔女狩り。
 しかし、本物の魔法使いには火あぶりなど遊戯に過ぎず、今、今日まで裏の世界を生きてきた。

 魔法といっても、ファンタジーの世界にあるような、火を起こしたり魔獣を召還したりといったものではない。
 現実の魔法は厳しい法則と、何重にも作られた規則(ルール)がある。
 お金が欲しいからといってその場で何の原料もなく金を生み出すことはできない。死にたくないからといって不老不死の薬を調合することはできない。

 有名な一例が、錬金術である。
 錬金術とは、鉛を金に変え、不老不死を得る賢者の石の精製を目的として生み出された魔法である。魔法でありながら、魔法を使えない者も錬金術に挑戦した。しかし、当然のことながら化学の法則により物質は別の物質に変えることはできないとされている。結果は、魔法使いでない者はおろか、魔法使いでさえも失敗。魔法使いに、この世の物理化学の壁と、魔法の不便さをたたきつけた。

 こういったこともあり、今では魔法使いでさえ魔法を使うことは少なくなっている。空を飛ぶなら飛行機を使えばいい。海を渡るならジェットホイルでも使えばいい。遠くの誰かと会話するなら携帯電話を使えばいい。度重なる科学の進歩が、魔法使いに魔法使いであることの意味を失わせた。

 それでも、それでもなお魔法使いは存在していた。なぜ――?