『なあ明人~南高のナオちゃんってわかる?読モのさ~』
隣のクラスの男子が、わざとクラス中に聞かせるように大きな声で、そう言った。
『え、南高のナオちゃんって』
それを聞いていた友人は、一緒に見ていた雑誌をパラパラめくり、“ナオちゃん”のページを開く。
漆黒のまっすぐなロングヘアー。
写真じゃわからないけれど、きっとそれは触り心地が良さそう。
短い制服のスカートから、すらっと伸びる長い脚。
同じ高校生にはとても見えない。
『明人の連絡先知りたいんだって!』
『はー?俺知らないけどその子。可愛いの?』
藤堂くんは口ぶりこそ面倒なように振る舞っているけれど、その顔は絶対、まんざらでもない顔だ。
可愛いの?なんて聞く辺り、本当チャラいし。
なんだかんだ言って連絡先も教えて、今日の放課後遊びに行くことになったらしい。
……別に、聞き耳立ててるわけじゃない。
席が隣だから、聞こえちゃうだけ。
『長妻も行く?』
『なんでよ、関係ないもん。部活あるし』
『そ。じゃあまた今度な』
『……』
ばかみたい。
なんで私に話振るの?
関係ないじゃん。
あなたが顔も知らない読モの女の子が、わざわざ連絡先聞いてくるなんて、理由は一つしかない。
そんな場に、なんで私が行かなきゃいけないのよ。
頬杖ついて、人の顔色覗うみたいに。
また今度な、なんてかっこつけて。
ばかみたい。
それにモヤモヤしたり、ドキッとしたりしてる自分が。
それからしばらくは、藤堂くんに話しかけられても、なんだか上手く話せなくて。
あの頃は、これがなんなのかよくわかっていなかったから、すごく苦しかった。

