「指輪……」
帰り間際、藤堂くんは小さな声で呟いた。
「……うん。ありがと」
彼の暖かい手から指輪が返されると、一気に現実へと引き戻される。
私の相手は、藤堂くんじゃない。
勘違いするな、とまるで直也に言われているような気がした。
「いつでも連絡して。なんでもするから」
そんな私の気持ちが、彼にはわかるのかな。
なんでもするなんて、易々と言うことじゃないのに。
「ありがと」
キスされたとき、彼は私の知らない男の人の顔をした。
あの頃私には、見せてくれなかった。
きっと、彼の彼女だった子たちしか知らない。
さっき会った、ショートカットの美人さん。
あの人も、知ってる顔。
そのとき自分に押し寄せた感情の名前は、知っている。
いまだかつて、藤堂くんにしか抱いたことのない気持ち。

