リライト

「ちょっと!何処に行くのよ!」

「ちょっとそこまで~♪」

鼻歌混じりで彼は先をゆく。こんな機嫌が良さそうな彼も初めて見る姿だ。
あたしは抗うことを諦めて彼のペースに巻き込まれることにした、けれどもやはり腑に落ちない。彼の意図がさっぱり見えないからだ。あの事にも全く触れない、というかそんな甘い雰囲気にもならないし最後に吐き出された睦言だって当たり前だけど紡ぎ出されそうにない。
信号機が赤く点灯し暫し一時停止。行き交う車の流れを流し見をしながら彼は一点先を見つめている。言葉は交わさないのに掴まれた腕は離されない。

ねぇ、君はあたしのことどう想っているの?

そう聞きたいのに聞くことが出来ない。ひとり彼の行動や言葉に振り回されせめてもの仕返しが横顔を盗み見しか出来ない自分にまた下を向いて溜息が零れる。

「…」

そんな思考ばかりで、彼こそあたしを見て切なげで鬱蒼とした瞳を浮かべていたことをまだ気が付かずにいた。