扉を開けて力の限りに思い切り閉めてあたしは走り出す。もうここにも居場所がないような気がして。
遠くの方で彼が叫んでいるような気もしなくはなかったけど聴こえないフリをして駆け抜けた。筈だった。思い切り走ったところで年下とはいえ男性の速さには叶うはずはない。
それでもと抵抗して必死に逃げるけれど、あと少しでエレベーターホールだというところで手首を捕まれ進行を妨げられる。
「離してよバカ!あんたなんか大嫌い!あんたに話したあたしがバカだった!」
地団駄を踏んでみたり暴れたりしてみても彼にはどうともないらしく掴まれた手首の力が更に強まるだけ。それでも、と解こうとすればするほど強まる力。ますます逃げ場がなくなる気持ちに焦る。
「いつもいつも!あたしのこと嫌いなくせになんで付き纏うのよ!ほんとバカみたいじゃない!だから離してよ!」
その時、ずっと押し黙っていた彼が口を開いた。
「バカはあんたも一緒だろ!人の話は最後まで聞けよ!いつもそうだ!」


