その夜、リナがベッドの上でスマホをいじりながらくつろいでいると、珍しく父親以外の人からメッセージが届いた。

 差出人は、近藤香。
 リナが前の職場を辞めるきっかけになったあの女性社員である。

 突然のことにリナは思わず二度見して、背筋を正し、恐る恐る画面を開いた。

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佐藤さん、お久しぶりです。突然連絡してすみません。
近藤香です。
覚えていますか? 
どうしてもお礼が言いたくて、前の職場の子から連絡先を教えてもらいました。
佐藤さんにとっては、私のことなんて思い出したくないかもしれないけれど、ずっとありがとうって伝えたかったんです。
誰も私のことなんか気に留めてくれないと思っていたのに、佐藤さんが私のことを庇かばってくれて、本当に嬉しかった。
でも、私のせいで佐藤さんが会社を辞めることになって、合わせる顔がないような気がして、お礼も謝罪もできないままになってしまって……。
佐藤さん、本当にごめんなさい。
そして、本当にありがとうございました。
私は、あの会社を辞めて、今は新しい会社で働いてます。覚えることも多くて大変なこともあるけれど、以前よりすごく充実してます。
これもすべて、佐藤さんのおかげです。佐藤さんがいてくれなかったら、私はきっと人を信じることができなくなってしまったかもしれない。
だから、本当にありがとうございました。
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 メッセージを見て、リナのスマホを持つ手が震えた。

 瞳に涙が溜まりスマホの画面が滲む。ほっとしたような、嬉しいような、なんとも言えない気持ちが溢れて、それは涙に変わって次から次へとこぼれ落ちた。

 何度もそのメッセージを読み直したリナは、少々悩みながらも丁寧に返信した。

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近藤さん、メールを送ってくれてありがとうございます。
私こそ、もっと早く近藤さんに声をかけて、ハゲ部長を止めるべきでした。
本当にごめんなさい。
私はしばらく自由を満喫していたけれど、新しい職場が決まりました。
ちょっと上司の癖が強くて大変そうですが、やりがいのありそうな仕事です。
お互い頑張りましょう!
よければ今度時間が空いてたら、飲みにでも!
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 そうしてリナは、久しぶりに満たされた気分で目を閉じるのだった。