映画が終わると、凛はグッと腕を伸ばし「おもしろかったね!」と笑う。
 そんな凛に、僕は「うん、おもしろかった」と返す。

 「あの人形達が一斉に来るところ! あそこが、最高に怖くて良かった!」

 そう楽しそうに語る凛に、僕は「うん、そうだね」と頷く。
 「とりあえず、近くのカフェに入ろうか。ずっと見てて、疲れたでしょ?」
 「そうだね〜うん、カフェに入って、いっぱい話そう!」
 「うん」

 凛とカフェに入り、僕はアイスコーヒー、凛はアイスティーを頼んだ。
 一番奥にある、片方がソファーで、向かい側は椅子になっている席に座る。凛ソファー側で、僕が椅子だ。

 「ねえ、有は映画のどこが良かった?」
 「んー、壊れた人形を、主人公が可哀想な目で見てるところ」
 「えー? そこで、人形が主人公を憎んで、襲うようになるんだよ? なんでそこなの?」
 「なんか、共感した……から、かな。僕もきっと壊したらああいう目でみるんだろうなって」
 「他は共感できないの?」

 「うん、あんまり。人形が主人公襲うのは納得できるし、最後人形に釘を刺すのは可哀想だよ」

 僕がそう言うと、凛は「ぷっ、有って変っ!」とケラケラと笑う。

 「そっか、うん、有らしいね」
 「……凛は、映画、楽しめた? あれ、好き?」
 「うん、もちろん! 楽しかった! 私、好きだよ!」

 その笑顔を見て、僕は「よかった」と返し、アイスコーヒーを口にする。
 すると、凛は頬杖をつき、僕をじっと見る。

 「……なに? 何か、ついてる?」
 「有ってコーヒー、ブラックで飲むの?」
 「あー……うん、まあ。ミルクとか側にあったら入れるけど、なかったらそのままかな。なんか取りにいくの面倒くさいし」
 「えー面倒くさいからブラックなの? そのくらい頑張れよ!」
 「うるさいな」

 ほんとうは、少しでも凛から目を離したくないから。

 そんなことを、言える勇気は僕には微塵もなかった。
 「ふふっ、ほんと有って変なの」
 「……それってさ、褒めてないよね」
 「褒めてるよ。私、有のそういうところ、魅力だと思うな」

 「……ありがとう」

 僕がそう小さく言うと、凛は「あっははは! ひーっ! ほんっと、有って変なのーっ!」と声をあげて笑っている。
 そんな凛に、周りの人は視線を向けている。

 「凛、周りが見てる」
 「あーごめんごめんっ」
 「涙でてきた」なんて言いながら、目を擦る凛に僕は苦笑いをこぼす。

 そんなにおもしろかっただろうか。
 でも……凛が、こんなに笑うのは、珍しいな。

 「ほんと……今日って変な日」
 「変な日?」

 「変な日だよお。有から手を握ってきたり」

 凛の言葉に、僕はアイスコーヒーを吹き出しそうになる。

 「有っぽくないなって思ったり」

 いつそんなことを思ったんだ?
 僕が考えだす前に、凛が言葉を続ける。

 「かと思えば、やっぱり有だなってなったり」

 凛の言葉に、僕は首を傾げることしかできない。
 そんな僕を見て、凛はクスクスと笑う。

 「私は……いつもの有がいいな」
 「……たしかに、今日は変な日だ」
 「え?」

 「凛が変なことを言う」

 僕がそう苦笑いして言うと、凛は目をまん丸にした。
 そして、すぐに「そうだねっ」といつもと同じ笑顔を見せた。