バスが止まり、ドアが開く。
 順に降りていけば、目の前には大きな建物が三つあり、真ん中に窓ガラスで囲まれた通路で繋がれていた。

 「えーと、映画館は一番奥、か。凛、行こう」

 そう言って、僕が進むと、凛は少し不満そうに「……あー、うん」と返事をした。そんな凛を不思議に思いながら、一番近い建物へと入った。

 「ひゃ〜、涼しい〜!」と、建物内に入るなり、凛は両腕をグッと伸ばす。
 「そうだね」
 「ほら、早く行こう、有!」

 さっきの不満げな笑顔からは、想像もできないくらい、凛は満面の笑みを見せた。
 その笑顔に僕は安心し、前を歩く凛について行く。

 映画館へと着き、一番後ろの真ん中の席を二つ確保した。
 上映時間まで、あと三十分ぐらいあるため、近くにあるゲームコーナーを回ることに。凛と二人で、UFOキャッチャーコーナーを適当に歩く。
 凛が「あ! 可愛い!」と言い立ち止まって、「んーでもどうせ取れないもんなあ」なんて言って、また歩き出す。さっきから、これがずっと続いている。

 「あーっ! これ! これ!」

 今までとは違う、凛の反応に僕は少し驚きながらも、UFOキャッチャーの中を見る。そこには、手のひらサイズの、狐のぬいぐるみストラップが山のようにあった。

 「これ、私好きなの〜! ひゃーかーわいいー」

 凛がこんな風になるの珍しいな……ほんとに好きなんだ……。
 「凛、やるの?」
 「えっ」
 「まだ上映時間まで時間あるよ」
 「……有ってさあ」
 「え?」
 「なんでもないっ! お手洗い行って来る!」

 凛はそうプイッと、そっぽを向いてトイレの方へと行ってしまった。

 そんな凛に僕は首を傾げ、UFOキャッチャーの方へと視線を向ける。

 ……あんま、自信ないけど。

 僕は、鞄の中から財布を取り出し、小銭入れのところから百円を取る。そして、UFOキャッチャーに入れて、ボタンを押していく。しかし、狐のストラップは落ちてこない。

 「……難しいな」と、呟いたとき、後ろから肩をポンと叩かれる。
 「有、お待たせ! 映画そろそろ行こう?」

 振り向けば、さっきとは違い、満面の笑みを見せている凛の姿。
 「うん、行こうか」そう言うと、凛は僕の手を取り前へと進む。

 そんな凛の後ろ姿は、ただ綺麗で。

 揺れる黒髪に、小さな背中が、とても愛しくてたまらなかった。