楽しく、弾くんだ。
音も、指の位置も、考えなくて構わない。他人なんかどうだっていい。大事なのは、気持ちだ。
そう教えてくれたのは、君だろ?
向日葵の右手が入ってきた。
ペダルを足で押しながら、俺は向日葵と二人で、曲を奏でる。
観客席も、今は静まり返っている。
横を見ると、向日葵は笑っていた。いつも通り、初めて俺と向日葵が出会ったときのように、何よりも楽しそうに弾いている。
そうだ。それでこそ、向日葵だ。
目が見えないからなんだ。命が短いからなんだ。
向日葵は、楽しく、ピアノを弾けば、それでいいんだ。
サビに入る。
終始なめらかな曲で、あんまりフォルテはないはずだ。
ここもピアノ(小さく)なのに、向日葵は完全に無視して、力強く弾いている。
歯を見せて、満面の笑みを浮かべて、本当のひまわりのように、ピアノを弾いている。
俺は、目を瞑ってみた。
