心の中に奏でる、永遠の向日葵



おかしい。今までコンクールに出たって、緊張はするものの、指が震えることはなかった。


最後に指が震えたのは…。そう、ピアノの全国大会に出たとき以来だ。
 

なんでだろう。全国大会の時と、同じくらい緊張しているという事なのだろうか。
 

「それでは、早速始めたいと思います」
 

小島先生の声が、ひときわ大きく聞こえた。
 




コンサートが、始まる。
 




「一番。坂本信也(さかもとしんや)さん。演奏曲は、ショパン作曲。ノクターン第20番 嬰ハ短調『遺作』です」
 

本当のコンクールのような口調や言葉遣いに、さらに緊張感が高まる。
 

舞台入口のすぐ前でスタンバイしていた、坂本さんは、震えた足を前に出しながら、舞台に上がる。
 

トップバッターなんて、緊張するに決まってる。
 

それにしても、大丈夫なのだろうか?


リハーサルの時も、ちょっとつまずいていたし、本番になったら、もっとミスをする確率が増える。
 

しかし、俺にそんなことを考える余裕はない。

今俺にできるのは、震えた指を、もう一つの手で押さえることだけだ。
 

向日葵も、目を瞑って顔を引きつらせている。緊張しているんだ。


ただでさえも、コンクールは緊張するのに、向日葵はそれに加え、過去のトラウマもある。
 

きっと、俺の緊張感なんか、比べ物にならないはずだ。
 



「…向日葵」
 

向日葵は、「なに?」と震えた声で聞き返す。