「お礼を言うのは、こっちの方よ。向日葵さん、あなたと出会って、毎日幸せそうだから」
淀野先生は、そうやって微笑んでくれるが、目は赤くなっている。
「日向君も、向日葵さんの事全部知ってるんでしょ?それでも向日葵さんと一緒にいてくれるなんて、本当に優しい子ね」
褒められているが、先生の震えた声に、俺はなんていえばいいか分からず、目をそらした。
すると、その先にいたのは、机に座って本を読んでいる、あの耳の聞こえない男の子だった。
「あの子…」
俺が声を漏らすと、先生もその子に目を向けた。
「ああ、あの子ね。木下治夫(はるお)君って言って、向日葵さんの親戚なの。だから、向日葵さんの事も、もともと全部知っててね」
淀野先生の説明に、俺は腑に落ちた。
ずっと考えていた。なんで、あの男の子が、向日葵の事を知っていたのかって。そうか、親戚だったのか。
「衣装、着替え終わりました!」
向日葵の、元気な声が後ろから聞こえる。
俺は、振り返って挨拶をしようとしたが、その前に声が詰まってしまった。
「あら、向日葵さん。ドレス似合ってるわよ」
「あ、ありがとうございます!」
いいや、これは似合ってるなんてレベルじゃなった。
これは、俺の目を通しているから、フィルター越しなのかもしれないけど、とにかく綺麗だった。
