俺は、自分にそう言い聞かせながら、ふとスマホの時計を見ると、既に三時を回っていた。
 

俺は、急いでカバンを置いたロッカーに(クラスではカフェをやってるので、専用のロッカーに置いている)行って、衣装を取り出した。
 

高校に上がったころ、母さんに買ってもらった、タキシード。

黒いスーツの下に、白い服と蝶ネクタイ。いつも、コンクールではこの一着しか使っていない。
 

コンクールでは、必ず正装というルールがあったため、俺もこれを着なくてはならないのだ。
 

トイレで着替え、外の鏡でネクタイを整える。
 

今まで、かぞえきれないほど見てきた、自分のタキシード姿。

でも、今日が一番、表情が柔らかいような気がする。
 

少し早いが、そろそろ特別クラスに行こう。


俺は、あまりタキシード姿を見られたくなく、人気のない道を通って、特別クラスまで行った。
 

「失礼します。向日葵さんを迎えに来ました」
 

俺は、断りを入れて教室に入るが、向日葵の姿は見当たらない。
 

すると、淀野先生が椅子から立ち上がった。
 

「あ、ごめんね。向日葵さん、今衣装に着替えてるの。もうすぐ来ると思うから、ちょっと待っててね」


淀野先生の優しい言葉に、「ありがとうございます」と、俺は頭を下げた。
 

すると、淀野先生は、「いいえ」と上品に声を出した。