すでに、二時を回っていた。俺は、少し急ぎ足で、水田が剣道の模擬試合をやるという、畳部屋に向かう。
畳部屋と言っても、体育館の半分ほどの広さがあり、剣道以外にも、柔道の練習で使ってることもあるらしい。
畳部屋に着くと、模擬試合をしている人や、職員の人に、目の前で自分の動きを見てもらう人もいた。
俺がキョロキョロと目を動かすと、水田は男の人と、何やら話していた。
「…剣道を生かせる職業って少ないけど、警察とか、セキュリティ関係の仕事とか、最近では、外国人の観光客に指導するって言う職業もあるよ…」
「…そうなんですか。失礼ですけど、根本さんの大学では、皆さんどのような進路に…?」
「…そうだなぁ。やっぱり、警察が多いかな。うちの大学に入るんだったら、僕からおすすめしておくよ」
どうやら、進路の話をしているらしい。小さい声だが、俺にはすべて筒抜けだ。
すごい。見事三人とも、良い調子で進んでいっている。未来への希望が見えてきたようだ。
でも…。
そうなると、やっぱり頭の中に浮かぶのは、向日葵の事。
もしも、万が一、向日葵が音大にスカウトでもされたら?
向日葵は、どんな反応を見せるのだろう?嬉しいような、悲しいような、そんな複雑な気持ちになるに決まっている。
