「ダメだよ…。明日が…本番なんだから、もっと練習しないと…」
 
「そんな状態で練習したって、辛いだけだ。CDも渡すから、落ち着いたら家で、また練習してきてくれ。な?」
 

俺は、向日葵に優しく声をかけ、カバンを握らせた。
 

向日葵は、とうとう観念したのか、ゆっくりと頷くと、立ち上がる。
 

「歩けるか?」
 

「うん。ちょっと、疲れてるだけだから。昨日、少し無理して練習しすぎたから、そのお返しが来ただけだよ」
 

心配する俺に、向日葵は笑って返すが、やっぱり声に元気はない。
 

ちゃくちゃくと蝕まれていく、向日葵の体。
 

これが、命のカウントダウン、というやつだろうか。
 




九月から、向日葵は毎日、お母さんに車で送り迎えをしてもらうそうだ。
 

なので、今日も約束の時間よりかは早いが、校門の前で、待つことになった。
 

「とりあえず、ここに座っておいた方がいいだろ?」
 

俺はそう言って、校門の近くにあるベンチに、向日葵を座らせた。
 

俺もその横に立つが、向日葵の調子の悪いところを見た後だから、やっぱり気まずくて、話す内容が思い浮かばない。
 

色々話題を探してみる。
 

大丈夫?とか、よくなったか?とか…。


「ね、日向君。この前言ったよね?私は、いつもピアノを弾くことで、夢のような世界を奏でてるって」